排卵の異常 検査・治療

排卵を知るためには

きちんと排卵が起こらなければ、妊娠には至りません。では、きちんと排卵しているかどうかは、どうすれば分かるのでしょうか。
まずは、基礎体温を測ることです。排卵した後には黄体ができ、プロゲステロンが分泌されますが、このプロゲステロンは基礎体温を上げる作用があります。そのため、基礎体温は排卵すれば排卵前に比べて高くなり、また月経周期を通して見てみると、体温の低い時期と高い時期の2相性になるはずです。
基礎体温がはっきりしないときや、黄体が十分にはたらいているかどうか分からないときには、血液の中のプロゲステロンを測る方法もあります。そして一番確実な方法は、排卵の前後に診察を行い、卵胞を観察することです。排卵すると卵胞の中に出血するため、超音波で排卵したかどうか確認することができます。

視床下部や下垂体の異常による排卵障害

視床下部の異常

視床下部から下垂体に向かって、Gn-RHというホルモンが出て女性の月経周期をコントロールしていますが、これがうまくいかなくなると排卵も乱れてしまいます。視床下部は体調、精神状態、栄養状態などのさまざまな影響をうけやすいので、ストレスの多い現代社会ではあらゆるきっかけで視床下部の調子が悪くなり、排卵がうまくいかなくなることが多くあります。

下垂体の異常

下垂体は視床下部からのGn-RHによる指令を受けて、卵巣を刺激するFSH(卵胞刺激ホルモン)やLHというホルモンを分泌しますが、ここに異常があると卵胞が成熟しないため、排卵しなくなってしまいます。こういった下垂体の異常の場合、まずFSH、あるいはそれと同じ働きをするホルモン注射hMGで卵胞を成熟させます。その後LHと同じ働きをする注射hCGで排卵を起こすことができます。

治療について

排卵誘発剤による治療【経口】

まず使用するのがクロミフェンという薬です。クロミフェン(商品名クロミッド、セロフェン、フェミロン)は軽い排卵障害の治療に有効な薬です。月経の3~8日目から1日0.5~3錠を5日間服用します。この薬は排卵が遅れたり、時々排卵がなくなったりする方などにはきわめて有効です。視床下部にはエストロゲンを感知して、それに応じて性腺刺激ホルモン(FSHやLH)の分泌量をコントロールするセンサーがありますが、クロミフェンはこのセンサーに結合して、視床下部に「エストロゲンが足りない」と錯覚させる働きをします。すると視床下部は「もっと性腺刺激ホルモンの分泌を増やせ」という信号を出すので、その結果排卵が起こるようになります。

クロミフェンは子宮頚管粘液が増えない、子宮内膜が厚くならないといった副作用が起こることがあるのが難点です。しかしクロミフェンは注射の排卵誘発剤などに比べれば多胎などの副作用も少なく、この薬だけで妊娠される方が多いのも事実です。漫然と投与すべき薬ではありませんが、軽い排卵障害の場合のファーストチョイスと言ってよいでしょう。
それ以外にもシクロフェニール(商品名セキソビット)やレトロゾールといった薬を使う場合もあり得ます。
セキソビットはクロミフェンと同じような働きのある薬ですが、排卵誘発作用、副作用共にクロミフェンよりマイルドな効き方をします。クロミフェンで子宮頚管粘液が減るような場合には、この薬の適応になります。レトロゾールは他の薬が効かないときの排卵誘発の選択肢となります。

排卵誘発剤による治療【注射】

注射による治療は、クロミフェンやシクロフェニールが効かないような重症の排卵障害の場合や、これらの薬で排卵しても妊娠に結びつかないときに適応になります。hMGやFSH(卵胞刺激ホルモン)は卵巣の卵胞に直接働いて卵胞を発育させる作用があり、月経開始後5日目から筋肉注射します。注射の方法には毎日注射する方法、隔日に注射する方法などがあり、注射する量も一日75~300単位と幅があります。場合によってはクロミフェンなどの経口の排卵誘発剤と併用することもあります。hMGやFSHを注射するときには超音波で卵胞の大きさや数を厳密にモニターします。卵胞が次第に大きくなって18~20mmになったときにhCGを注射すると36~48時間後に排卵が起こります。
hMGとFSHはいずれも卵胞を大きくするという同じ作用をもっていますが、hMGにはFSHとLHの2種類のホルモンが含まれるのに対し、FSHはhMGに含まれるLHを取り除いて純粋なFSHを取り出した薬です。その他、FSHの遺伝子を取り込ませた培養細胞に作らせた遺伝子組み替え型のFSHが臨床に使われています。
hMG(FSH)-hCG療法を行えば視床下部の異常、下垂体の異常などによる排卵障害の場合、ほとんどの方で排卵をおこすことができますが、副作用として双子以上の多胎妊娠の可能性が増えることや、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)といって排卵した後卵巣が腫れて、腹水が貯まる症状が出ることがあります。卵巣過剰刺激症候群が起こりやすいのは35歳以下、痩せている、多嚢胞卵巣症候群、治療で妊娠したとき、などです。重症の卵巣過剰刺激症候群が起こった場合、入院して治療する必要があります。

多嚢胞性卵巣症候群(PCO)

多嚢胞性卵巣症候群(PCO)とは

PCO

卵胞がまだ小さいうちに卵胞の成長が止まってしまい、卵巣の表面の膜が分厚くなり、排卵がおこらなくなることがあります。これが多嚢胞卵巣です。体全体のホルモンの相互作用の異常によって起こると考えられていますが、はっきりした原因は分かっていません。
診断は、LH・FSH(卵胞刺激ホルモン)・その他ホルモンの分泌状態を測定する方法のほか、超音波検査、腹腔鏡検査によって卵胞がたくさんあることが確認できます。

治療

この病気の治療には、薬による治療と手術による治療があります。薬による治療ではまずクロミフェンを試してみます。症状が軽ければクロミフェンで排卵可能です。クロミフェンを5日間服用しただけでは排卵しない場合には、さらにもう5日間クロミフェンを服用する2段階投与を行います。
これでも排卵しない場合には、メトホルミンという糖代謝を改善する薬やプレドニゾロンというステロイドホルモンの薬を併用します。それでも排卵しない場合には排卵誘発剤の注射による治療の適応になりますが、多嚢胞卵巣の方にFSH(卵胞刺激ホルモン)やhMGを使うと卵胞がたくさん発育して、多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群が起こりやすいので注意が必要です。
どうしても排卵しにくい場合に、腹腔鏡手術で卵巣の分厚くなった膜に小さな穴をたくさんあける手法があります。こうすると排卵しやすくなり、この効果は1年から1年半続きます。

卵巣性無排卵症

早期卵巣機能低下症(POI)

どんな女性でも更年期を迎えると卵巣の機能が低下して排卵が起こらなくなります。しかし、若い方でも卵巣機能が低下し、排卵が起こらなくなる場合があります。そしてなぜこのようになってしまうのかは分かっていないため、治療の困難な排卵異常といえます。

治療

卵巣に卵胞が残っているのかどうかを調べるには、腹腔鏡で卵巣の組織の一部を取り出して顕微鏡で調べる必要がありますが、卵巣を削り取る必要があり現実的ではありません。AMH(抗ミュラー管ホルモン)の血液検査は、卵巣に残っている卵胞の数に比例するのでPOIの診断に役立ちます。
卵巣が原因で排卵がうまくいかない場合、下垂体は卵巣に「もっと働きなさい」というシグナルとしてFSH(卵胞刺激ホルモン)というホルモンを分泌するようになります。FSHは卵胞を大きくする働きをもっていますが、このホルモンが高い状態が続くと、いくらFSHがあっても卵胞が反応しなくなってしまいます。こういった場合、しばらくFSHを下げてやると卵巣がまた排卵するようになる可能性があります。
ただ、この方法で排卵の可能性があるのは卵胞が残っているときだけで、全くない場合は理論的には卵子提供しか妊娠の方法はありません。しかし、ある大学病院では、無理だと診断された方がカウフマン療法というホルモン製剤を周期的に服用する治療を受けている間に、自然妊娠し出産されたという事例もあり、当クリニックでは、極めて確率は低いものの絶対に妊娠に至らないわけではないと考えています。

黄体機能不全

黄体機能不全とは

黄体機能不全

排卵後にできた黄体からはプロゲステン(黄体ホルモン)というホルモンが分泌されます。プロゲステンは子宮内膜に作用して子宮内膜を着床しやすい状態にし、着床した後は流産を防ぐ働きをしているため、黄体が十分働かないと不妊や不育の原因になります。基礎体温で高温期が10日以下だったり、排卵一週間後に測定したプロゲステロンの値が10ng/ml以下だったりした時に黄体機能不全と診断されます。高温期の子宮内膜を少し取り顕微鏡で調べて診断することもあります。

治療

黄体は卵胞からできるため、しっかりした卵胞ができないと黄体も十分に働きません。しっかりした卵胞を作ることを目的としてクロミフェン、シクロフェニールやhMGなどの排卵誘発剤を使う方法があります。また、黄体からのホルモンの分泌を促進して黄体機能不全を防ぐために高温期にhCGを注射する方法もあります。さらに、黄体ホルモンそのものを薬や注射で補充することで黄体機能不全の治療を行うこともできます。

黄体化非破裂細胞(LUF)

黄体化非破裂細胞とは

排卵の際、卵巣では非常に複雑なメカニズムが働いて卵胞が破裂します。ところがこの卵胞の破裂のメカニズムがうまく働かないと卵胞が破裂しないまま黄体になってしまいます。これを黄体化非破裂卵胞(LUF)と呼びます。こうなると、黄体ホルモンは分泌されるので基礎体温は高温になりますが、卵子は卵巣に閉じこめられたままになってしまい妊娠はできません。黄体化非破裂卵胞が起こる原因ははっきりしていませんが、卵胞の発育の異常や卵巣の周りの癒着が関係していると考えられています。

治療

もし、癒着が原因であれば、体外受精が最も良い治療でしょう。原因不明で頻繁にLUFが起こるときも体外受精の適応になります。まれに起こるだけであれば偶然と考えて、特に治療は必要ないかもしれません。

高プロラクチン血症

高プロラクチン血症とは

プロラクチンは下垂体から分泌され、母乳を分泌させる働きをもつホルモンで、妊娠中や分娩後に高くなります。一方でこのホルモンはFSH(卵胞刺激ホルモン)やLHの正常な分泌を妨げる働きがあるため、妊娠していないときに高くなると排卵がうまくいかなくなったり、排卵は起こっても高温期が短くなって黄体機能不全になったりします。プロラクチンが高くなる原因としては、特発性といって大きな原因はみつからない場合が多いのですが、下垂体の腫瘍や甲状腺機能低下症なども原因になります。それ以外にも精神安定剤や胃潰瘍の薬によってもプロラクチンが高くなることがあります。不妊症の治療を受けるときには、ほかの病気や飲んでいる薬についてはっきり医師に伝えましょう。

治療

下垂体に腫瘍がある場合では手術の必要があるケースもあるため、プロラクチンの値が飛び抜けて高いときには脳外科で精査を受けたほうが良いでしょう。
特発性の場合はテルロンやパーロデル、カバサールといった角製剤と呼ばれる治療薬があります。テルロンやパーロデル、カバサールを服用するとプロラクチンが下がって、排卵がうまくいくようになり、また、黄体機能不全などのホルモンのバランス異常も改善が見込めます。これらの薬を服用し始めた直後はむかつきや頭痛が起こることがありますが、ほとんどの場合しばらく服用を続けるとこのような症状もなくなります。

甲状腺機能異常

甲状腺機能異常とは

甲状腺機能の異常による排卵障害は甲状腺機能低下症の場合がほとんどです。甲状腺ホルモンは体全体の代謝をコントロールしている重要なホルモンで、卵巣も例外ではありません。不妊症の方は、一度は甲状腺ホルモンの検査を受けたほうが良いでしょう。甲状腺ホルモンが過剰に出すぎる場合には、不妊症になることはあまりないものの、流産や妊娠中毒症、甲状腺クリーゼなどの妊娠中や分娩後の異常につながりやすいため、妊娠前から甲状腺機能を専門医にしっかり管理してもらう必要があります。

治療

甲状腺機能に低下の見られる場合にはチラーヂンなどの甲状腺剤を服用する必要があります。なお、甲状腺疾患では甲状腺機能低下と過剰になることが交互に起こることがあるので、治療に際しては甲状腺ホルモンや甲状腺関連の抗原の値を定期的に検査して、薬の使い方を適切に管理することが重要です。

その他の原因

肥満やダイエットによる排卵障害

太りすぎても痩せすぎても排卵に悪影響をおよぼしてしまいます。
太りすぎてしまって排卵の調子が悪くなった場合には、生活習慣を改善してカロリーやバランスのとれた食事を心がけ、少しずつ体重を元に戻すようにしましょう。体重がなかなか減らず、排卵もうまくいかないといったときには排卵誘発剤を使って排卵を起こすようにします。
逆に、一ヶ月に何キロも体重を落とすような極端なダイエットを行っても、それが原因で排卵しなくなってしまうことがあります。これを体重減少性無月経といいますが、こうなると卵巣からエストロゲンが分泌されなくなってしまうので、無理なダイエットは中止して体重を少しずつ標準体重に戻すようにしましょう。それでも排卵が戻らないときには排卵誘発剤を使うか、しばらく卵胞ホルモンと黄体ホルモンの薬で月経をおこすようにすると排卵が回復することがあります。